共和ゴム株式会社

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ABS樹脂はなぜ劣化する?EPDMゴムとの移行性試験結果と色移り劣化要因

今回はゴムとプラスチックとの移行性について、当社で行った移行性試験の結果を共有したいと思います。

今回の移行性試験の樹脂はABS樹脂とし、ゴム材料はEPDMとしました。
但し、EPDMは硬度・配合を色々と変えて試験を行いました。

樹脂材としてABS樹脂を選定した理由は、ABS樹脂は日常生活にも多く見られ日用品などにも多く使われている材料にも関わらず意外と移行性の影響を受けやすい(移行性で劣化しやすい)樹脂ということが世間にあまり知られていないからです。

試験方法は、EPDMゴム試験片をABS樹脂で挟み込んで固定し、恒温槽に入れました。
試験条件は100℃×29日間、これはアレニウスの法則では20℃×20年相当となります。

ABS樹脂とEP15°を接触させました。
このようにABS樹脂が白化しております。これはABS樹脂の可塑剤などがゴムに移っており(これを移行性と言います)、白化したABS樹脂の表面はとてもざらついており明らかに劣化が確認されます。

ABS樹脂とEP60°導電性を接触させました。
やはりこのようにABS樹脂が白化しております。これはABS樹脂の可塑剤などがゴムに移っており、白化したABS樹脂の表面はとてもざらついており明らかに劣化が確認されます。
EP15°よりもEP60°導電性の方がゴムに含まれる可塑剤が少ないため、EP60°導電性の方がABS樹脂の可塑剤などを吸収しやすい状態のため、EP15°の時よりも白化・ざらつきが酷く、より劣化してました。

ABS樹脂とEP40°を接触させました。
ABS樹脂が白化しております。これはABS樹脂の可塑剤などがゴムに移行し劣化が確認できました。
ただEP40°の方がEP60°の時よりも劣化具合はマシでした。

ABS樹脂とEP40°CHを接触させました。
ABS樹脂が白化しております。これはABS樹脂の可塑剤などがゴムに移行し劣化が確認できました。
ただEP40°CHの方がEP60°の時よりも劣化具合はマシでしたが、EP40°と比べると劣化具合に大差はありませんでした。
ゴム材質と硬度が同じなら、配合が違っていても差がなかったです。
ただし、カーボンブラックや可塑剤の量は影響があると推測できます。

ABS樹脂とEP50°パーオキサイド加硫を接触させました。
ABS樹脂が白化しておりABS樹脂の可塑剤などがゴムに移行し劣化が確認できました。
加硫系の違いと移行性を確認したかったので、今までの4つのEPDM(硫黄加硫)とは違い、今回はパーオキサイド加硫でした。
移行はしてましたが、硫黄加硫よりも明らかにざらつきは少なく劣化具合はマシでした。

ABS樹脂とEP50°M500を接触させました。
ABS樹脂が白化しておりABS樹脂の可塑剤などがゴムに移行し劣化が確認できました。
ただ今までの中で一番劣化具合がマシでした。
今回のEP50°M500という配合はカーボンブラックの番手と分量を変えてます。
当社ノウハウが絡むところなので開示できませんが、カーボンブラックが移行性に与える影響は大きいということが分かりました。

ABS樹脂とEP60°パーオキサイド加硫を接触させました。
ABS樹脂が白化しておりABS樹脂の可塑剤などがゴムに移行し劣化が確認できました。
硫黄加硫のEPDMよりは劣化具合はマシでしたが、同じパーオキサイド加硫の硬度50°とは劣化具合に大差はありませんでした。

ABS樹脂とEP60°無硫黄加硫を接触させました。
無硫黄加硫と言ってますが、加硫促進剤の中に化学式で含まれている硫黄(S)を熱分解して取り出してますので、完全な無硫黄ではありません。
硫黄だけを添加せず数種類の加硫促進剤の添加・組み合わせだけで配合設計した試作EPDMとなります。
今までの硫黄加硫のEPDMと比べれば劣化具合がマシで、パーオキサイド加硫と同じような感じでした。
この試験結果で、硫黄加硫でも余分な硫黄分がない状態、硫黄が全て架橋に使われて化学的に安定状態であれば良いということが分かりました。

ABS樹脂とIIR50°を接触させました。
EP50°と同じような移行性でした。

今回の移行性試験で分かったことは、ABS樹脂は総じて移行性が悪いということです。
ABS樹脂は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチロール(S)の3つが組み合わさった樹脂材料です。
分かりやすく言うとAS樹脂にゴム成分であるブタジエン(B)を添加して強度・物性をUPさせた樹脂材料です。
ただゴム成分であるブタジエン(B)が入っており、ゴム材料との相性が良いため、お互いの添加剤・可塑剤を容易にやり取りしてしなう性質があります。

配合設計で多少は改善できる余地はありますが、ABS樹脂とゴムとの移行性は悪いと思ってもらって構わないと思います。
なるべくABS樹脂とゴムを接触しないようにする構造設計は必要かもしれません。

次回は世間的にはやはり一般的なPVC樹脂を使った移行性試験を行いたいと思います。

 

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